2025.11/vol.242
心が揺れて学ぶこと
初日から焦ったことを思い出した。
1997年の春。中小企業診断士の3次試験受験のために上京、しばらく都内に滞在した。試験は経営診断実務。グループに分かれて都内の企業を訪問。社長にヒアリングしグループ討論。報告書にまとめるという流れ。報告書は手書きでもPCでも構わないと聞いていたので、荷物は少ない方がいいと、丸腰で上京した。試験初日はオリエンテーション。私のグループはメガバンク1人、大手電機メーカー2人。私を除く3人がPCを持参しており、報告書はワードとエクセルでと、否応なし。冷や汗が出た私は公衆電話に走り、とにかく早く送って!と家人に頼んだ。
ところでこのメンバーだが、私を除いて受験動機が皆同じ。この資格が社内の昇進や昇格の条件なのだという。今朝もここに来る前に出勤し、終われば会社で残業。試験で精一杯な私は、仕事の合間に試験に顔を出す彼らにレベルの違いを感じていた。
翌日、メーカーの1人は昨日と違うPCを使い始めた。聞けば、昨晩、会社に戻る前に有楽町で購入し、残業後、深夜にセットアップしたという。当時のセットアップは今より手間を要した。それに試験中に買い替えるなんて、旅行中に新しい靴に履き替えるようなものと驚いたが、難なく操作する彼にあおられ、資料を作ったことも覚えている。
訪問先の企業でも恥ずかしい思いをした。3人はスーツにブリーフケース。私はチノパンにデニムのトート。あいにくの雨で、社屋入口でコートを脱ぐ3人。私はジャンバーの下はシャツなので仕方なくそのまま中へ。名刺交換。無職の私は受け取るだけ。3人に比べると作法もぎこちなかった。社長へのヒアリングはメガバンクの彼が別格だった。姿勢も言葉もニュースキャスターみたい。私は気おくれしてしまった。
焦り、驚き、羞恥、気おくれなど、様々な感情に見舞われた3次試験。報告書の中身は忘れてしまったが、心が揺れた記憶は簡単に反芻できるのだから興味深い。そして揺れた分、いろいろ学び今は冷や汗をかかずに済んでいる。しかし、これでよいのだろうか、とモヤモヤする自分もいる。歳を重ね経験を積み、これでいい、もう大丈夫、やめておこう。いとも簡単に片づけて、冷や汗を敬遠し心を揺らさず済ませてはいないだろうか、と。
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