2025.09/vol.240
嫌いになったわけではない
4年前に、とあるネクタイ専門店を卒業した。
卒業といっても店を嫌いになったわけではない。きっかけは、定宿で見た朝の情報組。私物かスタイリスト経由か定かではないが、芸能人のMCがこの店のネクタイを着けているのを目にしたから。
私がこの店のネクタイを初めて手にしたのは、くしくも店ができた初年度。生まれたての店、かつ個性的なデザインに魅かれ、これならかぶらないだろうと19本買い揃えた。そんな思い入れもあり、芸能人やスタイリストの琴線に触れるのは嬉しいが、メジャーになるのが寂しい気もして。実はこの映像を見るしばらく前から店から足が遠のいてもいた。
その理由は、創業当時の奇抜さが薄れ、東京以外でも買えるようになっていたから。一般受けし易いデザインが増えたように感じられ、ネット上だけでなく異業種の店頭や交通のハブになる場所でも商品を見かけるようになっていた。こうして買い易さが向上すると、最新アイテムが最速で伝わり最短時間で売れ始める。その結果、顧客も増えるが、飽きるのも早まる。事実、フリマサイトにも多くの出品があり、それを歓迎するファンと、残念に思うファンがいて。私は後者だった。
この原稿を書きながら店との出会いを思い出している。30代後半、機上の人となる出張が増えた頃。山口県から戻る途中、羽田から品川経由で表参道に足を延ばし、たまたま直営店を見つけた。たぶん表参道ヒルズのポップアップだったと思う。上階の通路に看板を置き数本の什器のみの出店。立ち寄ってネクタイを手に取ると大剣にポケットが付いていることに驚いた。隣には大剣と小剣の色が異なるタイプもある。発色のよいポリエステルや厚くて重いカーテン生地のものなど、珍しいつくりのネクタイばかり。スタッフにもハッとした。白いボタンダウンに黄緑のニットタイを結び、さらに紺の蝶ネクタイをつけているではないか。すっかり魅了された私は上京のたびに足を運んでいた。
こうして振返ると、なんだかまた店に行きたくなってきた。最新アイテムはネットで調べられるが、そこはぐっとこらえて。運よく20本目に出会えたら右上の写真で紹介しよう。
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240嫌いになったわけではない
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239先走ってはいけない
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238ホスト役はだれ?