2024.12/vol.231
閉鎖商圏でも続く商い
3月、あの時被害が大きかった地域にある店に向かうBRTで、花束を抱えた方々と乗り合わせた。席に着き車窓を眺める姿で地元の人かそうでないかがわかる。同じく私も、車窓から当時のかけらを探していた。海から離れ街中に入ると新しい建物が目についた。名前を確かめると地震の前日に宿泊していたホテルだとわかった。通り過ぎてしばらくすると、あの日のチェックイン時にかもめが鳴いていて、部屋に入ると窓から遠くに白波が見えたことを思い出した。
この辺りは大手が参入してこない閉鎖商圏で、ここに店を構える店主は幸い津波から逃れて無事だった。呉服衣料の商いを続け、100年どころではない歴史のある店を守っていた。大手が参入しないのは民力が足らず収益を上げにくいと判断したからだろう。ということは、地元商人としては穏やかではない。しかし、そんな環境でも商売を長く続けられるのは店主の腕。彼の言葉に耳を傾けていると、販促催事の話のところでハッとした。
新しい催事よりも懐かしい催事を大切にしていたからだ。えてして催事は飽きやすく、新たな催事を探りたくなる。しかし彼は、すでに飽きられたと思われがちな珍しくない催事(たとえば試着)を丁寧に磨き込んで継続していた。すでに無店舗&非接触購買に慣れた生活者が多い今の時代には、かえって新鮮な催事として歓迎されているのかもしれない。実店舗&接客販売を得意とする店舗にとってありがたい反応だ。
ここで気になるのは、なぜ同じ催事を継続できるのかということ。私は謙虚な姿勢が効いていると感じた。商いには波がある。それは外部環境の変化の影響を受けることもしばしば。ただ、儲かる環境下で催事がうまくいったときに、だいたい油断してしまうことが多い。すると、次から下降気味になり、やがて催事自体をやめてしまう。店主はいいときも、そうでないときも経験している。継続のカギはいいときに油断せず、結果を謙虚に受け止め、次は更に注意深く準備する。これを毎回繰り返してきたから同じ催事が継続し、ネット販売に傾注しなくても店が続いてきたのではないか。
そんな店主の特徴だが、まず姿勢がいい。店に立って様になる。歩いても颯爽としている。その姿が自然。私よりずいぶん年上の彼は、景色としての自分を大切に、お客様だけでなく従業員をも意識した立ち居振る舞いをしていた。これは衣料を扱う店に限らず、客商売の基本ではないか。またお会いしたい店主の一人だ。
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