2024.10/vol.229
初めてのおつかい
茶まんじゅう10個ください。
小学生の頃、初めてのおつかい先は徒歩3分の小さな菓子店だった。休日早朝、開店前のケースは空っぽ。個数を告げると、木枠のせいろからホカホカを手際よくナイロンにくるみ紙袋へ。底から伝わる温かさを感じながら帰宅。まだ8時前。薄皮がはりつくナイロンをはがし、皆でいただくおめざ。
私のひとくち目は大きく。黒糖生地とこしあんが平等に味わえるように。
次は前歯で、まんじゅうを回しながら、端の生地だけぐるりと食べる。あの店は包餡機を使っていなかったと思う。まんじゅうの顔が微妙に違う。生地に厚薄があり、厚いところはあんこが出るまで生地を食べすすめる。最後に、真ん中を。みっしり詰まったこしあんをちびちびと。不思議そうに見ていた弟と目が合ったことを覚えている。
この菓子店が営業をやめてからだいぶ経つ。実家を離れ、やがて私もあの茶まんじゅうのことを忘れていたし、コンビニで茶まんじゅうを見かけても、おつかい先の菓子店を想い出すことはなかった。
数年経過した春の彼岸。お墓参りの途中に鄙びた菓子店に立ち寄た時のこと。気づくと私はケースに顔を近づけ見入っていた。薄いナイロン、黒糖生地、そして形。それは、まさしくあの茶まんじゅうだった。もちろん、店が違うので、同じ商品ではない。でも、佇まいがいっしょ。身体を起こして店内を眺め、再びケースに集中。茶まんじゅうの顔を見比べてから注文した。
帰り道、あの茶まんじゅうは私の想い出に紐づけされていると感じた。当時の店や人のことも想い出していたからだ。営業が続いていれば、きっと足を運んでいたと思う。
ところで、この菓子店のように、ふと想い出し、行ってみたくなる店に共通点はあるのか?私の場合「初めて〇〇した店」だ。そして、実店舗であることも共通点のひとつ。以前、初心者向け販促について書いたことがあるが、長く続く店は初心者向けの販促が上手だ。そして、実店舗中心の商いであれば、初心者に分かり易く、そして優しい店づくりを展開しやすいのではないかと、あらためて思う。
さて、お墓参りから帰宅した午後。久しぶりに、おめざの食べ方を試してみた。まんじゅうを回して食べていると、弟の顔が浮かんだ。
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228創業からの人