2022.10/vol.205
あり方の前始末
建設会社の営業担当女性に新築住宅のアフターフォローについて話を聴いた。引渡してから最初のフォローは3か月後。あえて住み慣れないうちに、住み心地を伺うためらしい。要望どおり施工しても「こうすればよかった」が、数か所出てくるというが、施主は念入りな打ち合わせを経た結果なので「建ててみて、わかった」と納得している。しかし、営業の彼女は真摯に受け止めるという。なぜなら、住み始めてからが住まいの本領発揮であり、住まいのあり方の提案に終わりはないと考えているからだ。
さて、このアフターフォローだが、年に1度、ちょうど引き渡し月に訪問を継続している。施主にお会いすると、経年変化の修繕以外は「おかげ様で快適です」と、玄関先で失礼することが大半だというが、昨年、4人家族を訪問すると施主の奥様が冴えない表情で「ちょっと気になることが」と、愚痴をこぼしはじめたという。彼女は、築2年の施主の奥様(40代、専業主婦)で、設計打合せはご主人より奥様主導で進み、理想の住まいが実現したはずだった。リクエストは多岐に渡ったが、そこには定番の項目も含まれていた。例えば、狭いながらも子供部屋を2つ、廊下の突き当りにご主人の書斎、1日の大半を過ごすリビングのコーナーに奥様用のミニカウンターを、そして、子供部屋にも冷暖房とテレビ配線を、など。ところがこの冷暖房やテレビが奥様の悩みの種になっていた。
その理由だが、引っ越す前のアパートでは部屋数も少なくエアコンも1台で、子供たちはリビングで宿題がほとんど。食後もリビングがたまり場となりテレビを見るのが普通だった。ところが、新居では食事がすむと子供達は2階に行ってしまい、休日も各部屋で過ごすことが増え、奥様ひとりがリビングで寂しい思いをしているという。
これは設計というよりは家族のあり方の問題だろう。しかし、営業の彼女は、こうした悩みも真摯に受け止め、住まいの相談会のカリキュラムにライフスタイルの提案や、家族のルールを話し合うというテーマを設け、不の排除に取組み始めたという。これは住まいの事例だが、お酒も飲み過ぎれば身体を壊すし、スマホも使い方次第で依存症になる。商人としては、お客様が商品やサービスを購入した後も考えて、買った時より良くなる、満足が続くような前始末が大切だと再確認させられた一件だった。
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232ひとりの顧客と深く関わる
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231閉鎖商圏でも続く商い
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230傾聴が役に立たない時もある