2022.01/vol.196
持論よりも代弁
今春も「従業員向けに話してほしい」と、教育の依頼があった。その店には年齢や勤続年数が様々な方が働いているが、彼らに話す際、気を付けていることがひとつある。それは持論よりも代弁だ。
従業員教育といえばコンサルタントがテキストを配り持論を展開する姿を想像するだろう。それは「ためになる話をしてください」と、一過性の教育をよしとする店主には許せるが、教育の後を重視する店主には物足りない。後者の狙いは店内(社内)の一体化で、そのきっかけづくりに教育を位置づけているからだ。
店内を一体化する教育に欠かせないものは何か?ひとつあげるなら、店主の想いを伝えることだろう。具体的には、日頃から口癖のように繰り返していることを改めて全従業員に浸透させること。すると、私が登壇前に必ずしなけらばならないのは、店主の想いを確かめることだ。それを皆の前で代弁することが大切な役割になる。
恥ずかしながら、コンサルティング創業当時は、この一体化の重要性や店主の想いを察することができず、90分間ひたすら持論を展開していた。ところが、ある店の従業員教育の後、創業メンバーである店のナンバーツーから「あなたの店じゃないんだよ」と言われたことがある。彼が私に求めていたのは代弁だ。創業時の苦労話や転機を乗り越えた逸話など、店内で繰り返し語られ、古い話と流されていることを、外部から「これが店の原点、大事だよ」と伝え直して欲しかったのだ。ちなみに、ナンバーツーの彼からその店のルーツを聞かされて印象的だったのは創業メンバーの偉大さよりも、謙虚な姿勢だった。それは話の節々に当時から店を応援してくれた関係先やお客様への感謝の言葉が何度も出てきたからだ。
さて、今月決算で来月から新年度という店もあるだろう。このタイミングで経営方針を発表するなど、主にビジョンの共有化を考えているだろうが、せっかく全従業員が集うのだから、店の歴史や創業時のことを振り返る時間を設けてはどうか。この時、店主が自信に満ちた面構えで語るのがベスト、ナンバーツー等の創業メンバーもがそれを代弁するのも魅力的だ。私に教育の意義を教えてくれたナンバーツーのような人財が語れば、店主の語りに膨らみが出て、直属の部下にも思いが伝播しやすく一体化の好機になるだろう。
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