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たかはしこうじのマーケティングスパイス

2021.10/vol.193

開業医から学んだこと

顧客満足≠再来店。これは、買物に満足しても再来店するとは限らないという意味。理由は、お客様が店や商品に困っていないから。一方「せっかくだからこの店(人)から買いたい」と、事ある毎に足を運ぶ顧客もいる。再来店の鍵は店(主)への愛着や信頼だろう。後者の「信頼」はどうしたら得られるのか?私は、当たり前のことにサラリと応えるだけでも信頼は得られると感じている。今日はこの「信頼」について、私が受けた診察のエピソードをもって考えてみたい。病院を店、医師を店主に置き換えて読んで欲しい。
東日本大震災の後、総合病院で健康診断を受けると、ひとつだけ標準値を超える項目があった。後日詳しい検査を受けると「異常なし、体質かもしれないので様子を見ましょう」と当たり障りのない診察(商売なら「紋切り型の接客」)だった。ところが次の年も同じ項目がひっかかり、同じ医師に診てもらうと、前回と同じ診察だった。私は「体質かもしれない」が気になり、どんな体質ですか?と質問したが、納得できる応えは返ってこなかった。腑に落ちない私は、翌週、開業医に予約を入れた。この病院は医師、看護師、受付の3人体制だった。ここでも詳しい検査をしたが結果は異常なし。今回も当たり障りない診察に終始するのではと思いきや「調べてみましょう」と、その医師は次回の予約を促したのだ。思わず「調べてくれるんですか?」と返すと「それが仕事ですから」とサラリと応えた。この時ばかりは次の診察が楽しみで、できるだけ早い日を予約した。
後日出向くと、医師は約束通り応えを準備していた。医学書のコピーを取り出し、その場で数行を和訳、グラフに〇を付け、線を引きながら丁寧に解説してくれた。今まで気がかりだった「体質のせい」が、この医師によって明かになり私は安心した。おかげ様ですこぶる元気に働いているが、今後困った時には迷わずこの医師をたずねるだろう。
さて、この開業医を店主に置き換えると再来店のヒントが見えてくる。医師や店主には時には即答しかねる質問も寄せられるだろう。その時、調べるのが面倒だからという理由で流してしまっては信頼は得られない。調べても応えが絞れるとは限らないが、「それが仕事ですから」と、断らずに行動するだけでも好印象が残る。こうした積み重ねが、頼れる店のイメージを創り「困ったときはあの人に相談しよう」と、信頼を育むのではないだろうか。

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