2021.09/vol.192
偶然や直感の価値
店主の応えに「なんとなく(直感)」とか「たまたま(偶然)」という言葉が出てくると、この方は勘が鋭いに違いない、強運に違いない、と、思うようになった。きっかけは、東日本大震災。沿岸の街で商売をしていた店主は、指定された場所ではなく、別な場所に駆けて命拾いをした。あとで聞くと、直感であそこじゃだめだと思ったらしい。
彼との出会いは震災前。地方にこれほど逸品を揃える店があることに驚いた私。初回のコンサルティングで、仕入れ先や逸品の発掘法をたずねた。すると、出張先でたまたま目に留まった商品が気になり、だめもとでメーカーに直接交渉したところ、口座が開けたこと。今まで取り扱いがない分野の商品だったが、売れる!と直感して仕入れたところ、好評で定番化した、など。想像と違う応えを返されたことを覚えている。地元では、好奇心旺盛で商売熱心と評される彼。当時の私は、たまたま、とか、直感なんて謙遜に違いない、念入りに調べ、計画的に商談したのだろうと思っていた。
しかし、今は違う。先述の通り、偶然や直感の価値を認め、特に、ここぞという選択は、それらに従うほうがうまくいくのではないか、と思うようになった。偶然は皆に起きる。問題は、その偶然を避けずに素直に乗れるか否か。中には怪しい偶然もあるだろう。しかし、一度乗ってうまくいくと、良い意味で味を占め、積極的に偶然に出くわすことを歓迎する。ひょっとして、これが彼の「好奇心」ではないか、とも思える。
偶然の良し悪しは、過去を振り返れば検証できる。私は、自分の履歴を振り返ってみた。コンサルティングを始めて24年目になるが、開業前に何度か転職している。希望する職種には就けず、小規模な会社を転々としたが、おかげで様々な業種で社長の実態をみることができ、経営にも興味がわいた。再就職先が間もなく倒産したこともあったが、職探しの立ち読みで、たまたま中小企業診断士を知った。その後、定職に就かずにアルバイトをしていたから学習時間があった。運よく合格。その後開業するも、顧客はゼロ。しかし、たまたま情報収集に出かけた先で仕事をいただいた…。
私事で恐縮だが、私の職業人生も偶然だらけ、行き当たりばったりだったが、結果、良かったと思う。また、こうして振り返ることで、これからも、積極的に偶然に出くわす好奇心を歓迎したくなった。あなたも、うまくいくかわからないことに向き合う時があるはず。わからないけれど、やってみたい。そう直感するなら恐れずに選択してみてはどうか。応え合わせは、少し先になるが、例の好奇心が働くなら、分がある。これから始まる仕事の要になるはずだ。
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