2020.06/vol.177
任せて育てる
後継者難と言われるが、中には後継者がいても任せきれない店主もいる。先週対話した76歳の花屋の店主には48歳のご子息がいるが「(息子が)育たなくて」とぼやいていた。正しくは「育たない」ではなく「育ててこなかった」わけで、任せようと思った時に急に全権限を与えても当人は焦るばかり。もちろん個人差はあるが、育てるには想像以上に時間がかかるし任せるタイミングも重要なのだ。
コンサルティング先には50代のうちにバトンを渡した店主もいて、こちらは引継も商いも堅調だ。なぜ、早めのバトンタッチがうまくいくのか?おそらく早くに任されるとつまずきも多いが立ち直りも早く、その度に学びがあるのだろう。また、任せた方もいざとなれば助け舟を出し初心に戻る。互いに学ぶ機会が生れ商いにプラスに働くのではないか。
たとえば、文具と事務機の店では56歳の店主は息子が30歳の時に店を任せた。その経緯だが、店主が気力体力共に旺盛な49歳の時に大学を出たばかりの23歳の息子を修行に出さず自店に入れた。初めは商品を覚えるために店内の什器磨きや倉庫番をさせた。その後陳列、POP書きなど仕事を徐々に増やした。売り場ではパートの女性からOJTで接客を学ばせた。販促は女性社員と共に計画づくりから関わらせた。資金繰りと外回りは自分と妻が教えた。他にも様々な役割を繰返し経験させ、正式に権限を委譲したのは7年後だった。印象に残ったのは任されて間もない彼が「任されても新たな仕事はしていない」と言ったことだ。実は、倉庫番で入ったときから棚一段だけ商品を仕入れて売らせてもらったり、ウエブ販促もしていたのだ。当時の店主は「育てて任せる」のではなく「任せて育てる」だったわけだ。これは、当たり前といえば当たり前のことだが、後継者が家族の場合、やることなすこと気になってしまい実践できない店が多いのも事実。
さて、スケートも将棋もトップは10代が活躍している。競技と商いは違うが、伸びる時期や旬の時期は双方にありそうだ。今、店主のあなたが気力と体力に満ちているなら、後継者育成にも力を注ぐことができる好機でもある。先の店主のように「任せて育てる」を始めてみるのも良いのではないか。
(2019年3月14日執筆)
-
vol.
230傾聴が役に立たない時もある
-
vol.
229初めてのおつかい
-
vol.
228創業からの人