2020.04/vol.175
焦らない策
コンサルティング先には創業間もない店主もいる。当時を振り返ると、商品が品切れしたことや逆に余ったこと、臨時スタッフが接客でしどろもどろになり結局店主自身がレジに立ったこと、始めてみれば何かしら不具合は出るが、なんとか補ってきた店主がほとんどだ。でも中には少し読みが甘い方もいた。思い出すのはタイ料理店の女性店主だ。
弊社に相談があったのは、店を始めて4か月後。店に入るとタイ料理店なのに居酒屋メニューのPOPが壁に貼られていた。彼女は開口一番「前の店の常連さんが来ないので予定が狂ってしまった」と愚痴を言い始めた。前の店の常連とは、この店を始める前に15人で満席の居酒屋でバイトしていた時のなじみ客のことだった。どうやら「独立したら必ず行くから」という社交辞令を真に受けていた様子。確かに開店時は顔を出してくれたが、その1回だけで音沙汰がない。もちろんその人たちだけで25席の新店が回るわけではないが、前の店に週2~3回のペースで来ていた彼らへの期待は相当大きかったようだ。販促の話を聞くと広く宣伝した効果もあり最初の2カ月は店が混んだという。その間、調理に不慣れなスタッフを補いながら店主自身が作り、挨拶を兼ねてフロアにも出たが、料理を出すのが遅くなり待ちくたびれたお客様は冷めた空気で会計を済ませていったという。
開店から1週間の振り返りの中で、安全策を講じなかったことがわかった。安全策を別な言葉で言うと「焦らない策」だ。飲食店の焦らない策は①静かにオープンすればフロアが焦らない②メニューを限定すれば厨房が焦らない③営業時間を短くすれば明日の準備に焦らない④1人多くアルバイトを確保すれば欠員に焦らないという4つの前始末を指す。焦らない策の対話の途中で店主がハッとした。聞けばオープン前にそれらしきことを言われた覚えがあるという。その主はバイト先の居酒屋の店主だった。
事例は飲食店だが他業種の新装開店にも「焦らない策」を講じれば安全だ。これは経験値だが、焦らない策の「①静かにオープン」を守る店主は他の3つも守っている。その逆もしかり。広く宣伝し盛大に開店・集客したい気持ちはよくわかるが、オープン時のマイナスイメージほど容易に消えないことを忘れてはいけない。
(2019年3月10日執筆)
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