2024.11/vol.230
傾聴が役に立たない時もある
傾聴ありきのコンサルティングを強く意識したのは東日本大震災の後だった。壊れた店や仮設店舗のコンサルティング依頼を受けた時に、私に声がかかったのはなぜか?普段と違うコンサルティングが必要ではないか?と考えた。
被災した店主には、近しい人に話したい、聴いてほしいことと、近しい人だから言えないことがある。たぶん第三者で同じ災害を経験した私は精神的距離が丁度よく、話し易かったのではないか、と感じたのはコンサルティング後だった。
さて、弊所のコンサルティング先は、他人従業員を雇用する店もあれば家族経営のところもある。前者の店主が従業員の話を傾聴すると良いことが起きやすい。ふだんはちょっと距離があり、話す機会が少なくてもかまわない。始めは緊張しているので仕事の以外の話からはじめてもよい。店主が従業員の話に耳を傾け共感することで不思議と彼ら(従業員)のモヤモヤがスッキリする。以前コラムにも書いたがスッキリするのは社長が従業員の悩みを解決するからではないことを復習しておく。
スッキリすると、前よりうち解けて、仕事の相談もし易くなるだろう。傾聴の効果は短く、間をおいて繰り返すことが必要だが、一体化のきっかけになるのでおすすめだ。
ところが、従業員が専従者(店主の家族)だと傾聴が役に立たないことが多い。先入観が邪魔し、感情のくみとりが難しく打ち解ける糸口が見つけにくいからだ。
先般、小売店の社長から30人の従業員は動かせても、専務(ご子息)1人が動かせない、と打ち明けられた。帰り際、髙橋さんにはつい話してしまう、と笑うので、それは距離が丁度よいからでは、と応えた。
初対面の店主とは話が進むにつれ精神的な距離が近づく感覚があった。全てを知らない安心感が心の扉を開き先入観のない私は素直に傾聴・共感できたのだろう。だからといって息子さんの話を傾聴してみましょうとは勧めなかった。
理由は先述の通り。ではどうすればいいのか。最適解を探るには「不意にやってくる偶然の出来事を歓迎する」のはどうか。ヒントは「偶然と直感の価値」について書いた既載192号(あらかると416号)にある。興味がある方はご覧いただきたい。
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