2021.01/vol.184
礼状に礼状が届く
礼状については何度か取り上げているが、家具を製造販売する店主から興味深い報告を受けたので紹介しよう。
店主は山間部に本店工場を置き、市街地にギャラリーを兼ねた路面店を、商業施設にも支店を出していた。名簿には20年以上前の顧客情報が載っている。そこに工場やギャラリーを訪れた顧客予備軍(未購入)や最近顧客になった(購入した)方の連絡先が少しずつ追加されている。
この名簿を最初に活用するのは、先の「顧客予備軍」への礼状だが、励行はしていたものの、その中身は次のイベント案内や商品カタログを同封した封書で売込み色が強く、肝心のお礼のメッセージが疎かで、お客様の立場を踏まえているとは言い難かった。
店主が礼状を見直すきっかけになったのは商業施設の支店を撤退した時。寄せられた惜しむ声に、今までの顧客に想いを馳せ、改めて店のあり方を再確認したという。これを境に今までの売込み色の強い礼状を止め、純粋にお礼のみを伝えるハガキを出し始めた。
ところで、礼状といっても定型文をなぞるのは味気ない。何を書こうか悩まぬよう、接客の記憶が新しいうちにペンを持つことにした店主。山中の工場まで足を運んでくださったことへの感謝の気持ちや帰りの道中を気づかう言葉。当日の対話を振り返れば言葉に迷うことなく、むしろ紙面が足りなくなることも。しばらくして「礼状を変えてから、とても嬉しいことが続くようになった」と報告があった。かといってすぐにお客様が家具を注文してくださるという流れではない。何が「とても嬉しいこと」なのか聞くと、礼状を送ったお客様から「ご丁寧にありがとう」と、メールやハガキが返ってくることが嬉しいというのだ。礼状に礼状が届く現象。今まで家具の納品後に感謝の言葉が届くことはあっても、こうして購入前に感謝の言葉をいただくことは少なかったと店主。
この反響に「買う前からお客様に大切にされている、頼りにされている気がして身が引き締まる」という店主の言葉が印象的だった。礼状は販売促進の一環と捉えるのが一般的だが、店主の「身が引き締まる」という言葉から、礼状は初心を思い出させたり、モチベーションアップにつながるのではないかと感じた。
礼状に礼状が届く。あなたの店では普通かもしれないが、それは価値あることなので、ぜひ丁寧な礼状を続けてみよう。
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