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たかはしこうじのマーケティングスパイス

2023.08/vol.215

店主が語りきる時

コンサルタントは話す仕事だが、ほとんど話さずに店をあとにすることもある。これは、店主の行動が捗っている証で、私はこのパターンが大好きだ。年始早々にこのパターンが出現したコンサルティングがあったので紹介しよう。
店主家族3人で経営する婦人衣料&カフェは、人口18,000人の街にある。全店リニューアル前に何度も対話させていただいたが、その後久しぶりの再会。早速、新設のカフェ部門の戦術について対話した。その内容だが、店主の近況報告に始まり、各メニューの動きを確認、季節メニューの導入、メニュー表の書きかえ、2階個室客への厚遇強化、拡大する商圏の再確認、独自商品のアンテナショップでの販促戦術と通販戦略、計数管理(目標設定)と、終始、店主が語り続けた。それは「宣言」と言っていいほど潔い。その間の私はというと、頷き、相づちに終始し、発言といえば話が飛んだ時に行間を埋める質問をする程度だった。こうして60分のコンサルティングは、店主が語り切ることで、お開きになった。
帰り際、階段を降りた頃、店主が私の背中に「そういえば、何か気づいたことは?」と声をかけてくれた。彼は、あれっ、自分だけ話して、良かったのかな?と、気を使ったのだろう。私は笑顔で「益々忙しくなるので、身体には十分気をつけて」と応え、店をあとにした。このように、店主が安心して語りきるのは、考えがまとまり、自信が湧き、そして肝が据わっている時だ。コンサルタントを始めて間もない頃に、この現象に遭遇した時は、何か言わなければ、と焦ったこともあった。しかし今は店主の心模様が分かり、聴き届けることができるようになった。
さてここで、自店の接客や商談をふり返ってみよう。「あんなに熱心に聞いていたのに、なぜ買わないのだろう」と、違和感を覚えたことはないだろうか?自分が気持ちよく話している時、相手が「うんうん」頷き「なーるほど」と、相づちを打っても、結局、自分が行きたい処に進むだけの対話に終始すれば、買っていただけない。その見極めは簡単ではないが、ひとつの目安は「安心や信頼感の有無」ではないか。先の店主と私は何度も対話を重ね安心・信頼できる間柄だった。では、安心感を醸すには?バックナンバー『No.200 避雷針店主』で紹介した化粧品店の女性店主を真似るのも良いだろう。

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