2020.10/vol.181
醍醐味は初心に宿る
お付合い先の店主の皆さんは「うまくいった時より、うまくいくよう働いている時のほうが愉しい」という。これは、「商売って本当に愉しい」という商いの醍醐味が仕事の過程に在ることを意味する。中には「やってみたい!」と、仕事を思いついた瞬間に醍醐味を感じる方や、初心に返った時に醍醐味を感じるという方もいた。
町内人口約3千人の沿岸部に家族で営む菓子店がある。引越して新店を構えて間もない店主夫婦は、節分に提案する商品を考えていた。一番の狙いは、近所の道の駅からの誘客。実は卸先でもあり、利用者が多いので商品も非常によく売れる施設だが、目と鼻の先にある自店へ回遊してもらう策はないかと思案していた。
節分の企画を考えている時に目にとまったのは通年製造商品で認知度も高いロールケーキ。形が恵方巻に近く、そこに「おみくじ」と称したクーポン(自店でのみ使える)をつければ誘客につながると考えた。私はてっきり既存のスポンジ生地に色づけしたロールケーキを作ると思っていたが、翌月お会いすると笑顔の奥様が新商品をカットして出してくれた。さすが菓子職人。既存商品の色違いでは味気ないので、あれから商品開発に勤しんだという。先の笑顔から開発期間を十分愉しんだことが想像できた。こうして生まれた節分限定ロールだが一番の特徴はその生地。定番のふわふわスポンジとは対照的に、ずっしりしたフィナンシェ生地を採用。他で見かけない食べごたえのある逸品だ。この限定ロールの帯には愛らしい鬼面が印刷されている。これはおみくじと共に娘さんがデザインしたもの。中身だけでなく包装も愉しんだ様子が目に浮かんだ。価格は既存のロールケーキより割高だったが期間中に繰返し購入するお客様も見られ予想以上の売れ行きだった。狙い通り自店への回遊もみられ、今後の商品開発と販促企画の励みになったという。
ありがたいことにこの節分限定商品には再販を望む声が複数寄せられている。適時対応しているが、店主たちはすでに次の企画を練り始めていた。引越して新店を構えて間もない店主らは、おそらく初心に戻り、改めて商いを愉しんでいるのだろう。醍醐味の連鎖は今後も続きそうだ。
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228創業からの人
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226創業支援で気づいたこと