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たかはしこうじのマーケティングスパイス

2024.06/vol.225

たまたまの効用

ちょっと驚いた。
ある飲食店の店主から「たまたま」来店したお客様の定着率は意外と高く、常連になる人も多いと聞いたからだ。ポイントは期待値だという。事前に調べて来店だと期待値が高い、たまたまなら低い。そこで少しでも期待を超えると好印象の店になるからだと。私はうなづきながら信夫山での「たまたま」を思い出していた。
引っ越して2年目の11月上旬、私は北窓から見える信夫山に出かけた。
目的は学生時代に車で夜景を見に行った展望台。当時の道は狭く、路肩と崖と対向車に気を使いながら展望台を目指したが、今は幅広く舗装もされていた。30分以上歩いたと思う。最後の二股を右折し、目的地にたどり着いた。車が2台、その先に襟を立てて景色を眺める先客がいた。少し離れた手すりに近づき、眼下に20年以上前のかけらを探した。しかし、夜景の時間帯しか知らない私は照合できるものを見つけられず、当時聴いていたカセットや愛車を思い出す程度。たいした感動はなかった。時計を見ると、まだ15時前。ついでだから、先の二股まで戻り、もう一方の道に行ってみよう、と展望台をあとにした。
だれもいない山道のど真ん中を歩く。気分がいい。途中、修験道の朽ちた石段を見つけ、上がってみた。太ももがパンパンになった。きょろきょろしながら歩いていると「烏ヶ崎」という看板が立つ狭い坂にたどり着いた。そこを登りきり、先に続く未舗装の細い道を進むと、不意に目の前が開けた。右手に吾妻山、中央には南北に走る鉄道と国道の音が、風のすき間から時差を経て上ってくる。たまたまたどり着いたここは、烏ヶ崎展望台だった。
その時、烏ヶ崎には私だけだった。高所恐怖症だが、おそるおそる展望台の先の岩によじのぼり、秋の清々しい空気を吸い込んだ。今まで見たことがない角度で浮かびあがる福島の景色と音にしばらく浸った。
私は、あの時たまたま発見したこの場所の常連になった。仮に、事前に調べて足を運んでいたら、先の夜景の展望台のようにたいした感動もなくその場をあとにしたかもしれない。期待せずに「たまたま」見つけたからこそ心を動かされたのではないか。
今日は「たまたま」の効用について話した。貴店の常連客を増やすヒントになれば幸いだ。追伸、NO.192『偶然や直感の価値』の再読もおすすめ!

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