2019.05/vol.165
好きより上手
弊社のお付き合い先で掃除上手になった化粧品店がある。この「上手」というのがミソだ。店主の彼女が掃除に興味を示したのは商店主の会合で掃除熱心な繁盛店の話を聴いたから。実は以前も同じ話を聴いて箒を新調したが続かずじまいだったらしい。ところが今回は違った。日々の掃除を欠かさず、外用の大黒箒は1年もたずに新調するという。一番驚いたのは窓ガラスだ。拭きムラのない店頭の窓を褒めると「この1枚だけを毎朝拭くことから始めた」と、店奥の給湯室にある小窓をみせてくれた。なぜここを?と聴くと「一日に何度も行く場所にあって簡単だから」。ここならサボらず続きそうだ。小窓拭きを始めて3日目。彼女はからぶき用の雑巾を2枚に増やしていた。1週間を過ぎると店頭の窓ガラス拭きも始め、1か月後には、から拭き用の雑巾の替わりに丸めた新聞紙を握り窓拭きにハマっていたという。すっかり掃除好きですね、とほめると「いいえ、いまだに好きではありません、でも、ちょっと上手になったかな」と笑った。「拭く」といえば、飲食店のお付き合い先に、朝礼でテーブルを「拭く」と「撫でる」の違いを説き、掃除初心者のアルバイトに掃除上手を啓発する店主がいた。テーブル拭きの内容だが、汚れの有無にかかわらず天板の隅々まで力を入れて磨くのが「拭く」、食べこぼしに台布巾を置き、その汚れを薄く引き伸ばしておしまいが「撫でる」。これを実演してみせる。テーブル拭きが上手になると台布巾もきれいにしたくなるという。こうした波及も意図してのことだ。上手になるには、初めから好きである必要はない。事例は窓拭きやテーブル拭きだが仕事にも置き換えられる。仕事を趣味化している方の多くは、初めから好きだったとは限らない。簡単な仕事から覚え、プラスのマンネリが重なり上手になったのだ。いずれも簡単なことから始めるのが上達のコツ。掃除なら先の小窓拭きのようにサボる気が起きないくらい些細なことを。プラスのマンネリが生まれるころには上手になり、しかも止められなくなるはずだ。
(平成30年2月11日執筆)
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