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たかはしこうじのマーケティングスパイス

2023.03/vol.210

介護士から学んだこと

ひとづくりセミナーの後に介護士と話す機会があった。彼女は脳神経外科で看護師を務めた後に老人ホームに就き、双方で認知症患者を看てきた。その中には、定年退職後に認知症になった男性がいた。彼は毎日8時になると棚から鞄を出してそれをわきに抱え廊下を歩き回っていたという。8時は、会社勤めの時に家を出る時間だった。
その姿を目の当たりにした家族は唖然とし、最初は間違えを修正しようと「会社は退職したのよ」と、制したが収まらなかった。ある時、焦った家族が「ここは病院だよ!」と、語気を強めると、鞄を胸に抱え、表情を強張らせてしまったという。
ところが、とある週末にお孫さんらしき子供が見舞いに来た時のこと。無邪気にも「今日は日曜日だけど、会社に行ったの?」と、尋ねたところ「辞めた会社に行くわけないじゃないか」と、その子を諭し、これを機に8時の行動がぴたりと止んだという。何とも不思議な話だが、彼女によると、こちらが相手の世界に入りこむことで相手がハッとし、自分の世界から出てくることがあるらしい。
ところで、なぜこの話をしたのかというと、やはり相手の世界≒相手の立場になることが大切で、自分の枠だけで解釈し話を進めてはいけないと、私自身が反省したからだ。コンサルティング中は、何か応えを見つけなければという焦りから、近道するように自分のペースとルートで話を進めがちになる。すると、店主に伝えたい、教えたいという気持ちが先に出て、つい私が話し過ぎたり、相手が話している途中なのに、次に自分が話すことを考えてしまうこともあった。すると、見た目は滑らかな対話でも、相手の琴線に触れることは少なく、行動に結びつかないことが多い。
ところで、店主のあなたの日々の商談や接客で、うまくいった時のことをふり返って欲しい。お客様の本音が返ってきたり、お客様自身がハッと我に返り話し始めた時は、きっとあなたがお客様の立場に立ち、感情移入し、話を受け止め、応えた時ではないか。
今日は介護士との対話で気づいたことを紹介した。店主のあなたは自店に役立ちそうな切り口を探し、読み進めてきたと思う。おそらく接客や対話への応用をイメージしたと思うが、そのヒントは、ホスピタリティという言葉でつながる介護や医療といった異業種の中にもあることを覚えておいて欲しい。

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株式会社ケンオリ
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