2021.07/vol.190
ほんの少しでもましなこと①
コロナ禍のコンサルティング先の店主とは「ほんの少しでもましなこと」に目を向け、それを糸口に丁寧な商いを続けようと話してきた。どんな逆境でも、少しはましなことがあるもので、順境の時には気づかないそれに意識が向いただけで気持ちが軽くなることもある。また、先延ばししていたことが、この逆境だから決断できたという声も聴く。どうしようもない閉塞感を軽くするのは、逆境をどうとらえるか、店主自身の解釈力に依る。
2020年12月、100年以上続く和食店の店主から手紙が届いた。店を継いで30年、最大のピンチに直面しているとの書き出し。4月5月の売上は10%台20%台と最低限まで落ち、夏に盛り返すも年末は50%台と厳しい状況の中、なんとか雇用を守ろうと店主夫婦の報酬を限界まで下げた。しかし、職人1人、パート2人が店を去った。一番ショックだったのは10年以上店長を勤めた男性の辞意。家族の介護も重なり苦渋の選択だったという。
二進も三進もいかない状況が、便せんいっぱいに拡がっていたが、2枚目の中段から「うまくいっていること、ましなことを探してみると、意外にあるもので、閉塞感も軽くなります」と、前向きな文字が。うなづきつつ、読み進めると「40代の甥に社長を譲ると言って、ずるずる来ていましたが、社長交代にはいいタイミングなのかもしれません。私も専門学校の授業を引き受け、教えています。授業の構成や資料作りなど、初めてのことで大変ですが楽しみでもあります。」と、陽転した店主が浮かび、ほっとした。
コロナ禍に急変した業績。社員の退職。こうした逆境を、先送りしてきた社長交代の好機と捉える。たとえば、後継ぎの甥にとって、ベテランの退職はしがらみがなくなるのでよし。引き継ぎも、店が暇なうちに済むのでよし。いざとなれば自分がサポートできるのもよし、と前向きに解釈する。講師の誘いだって、何かのご縁。飛び込んでみれば、商売とはまた違う醍醐味があるはず。解釈次第で、混沌とした今が機会に変わるのだ。
起きること(逆境)には意味がある、あの時に決断して良かった、と腑に落ちるのはしばらく後になってから。混沌とした中でも、ましなことに目を向け、いいように解釈できれば勇気百倍だ。選択・邁進したあかつきには、必ず良い振り返りができると信じている。なぜなら、逆境時の選択と行動がおおむね正しいことは、今、商売を継続している店主自身の歴史が証明しているからだ。
-
vol.
232ひとりの顧客と深く関わる
-
vol.
231閉鎖商圏でも続く商い
-
vol.
230傾聴が役に立たない時もある