2019.04/vol.164
話はこちらで
店内を案内していただいた後に「話はこちらで」と、自宅に通されることがある。自宅といってもお付き合い先は自宅兼店舗の店主も多いので店の上階や工場のすぐ後ろだ。コンサルティングを始めて21年目になるが、今まで数百軒の店主宅にお邪魔したと思う。対話するのは居間が多いが、記憶に残るのは玄関だ。今日は店主の玄関と彼らの仕事場には共通点があるという話をしよう。
ひとつめだが、こざっぱりした玄関の店主は仕事場もこざっぱりしているということ。まず玄関だが、靴が出ていない。あっても上がり框側ではなく下駄箱側の土間の隅にピタリと寄せている。昨年お付き合いさせていただいた造園業の店主もパパッと自身の靴を端に揃え忍者のように軽い身のこなしで上り口へ。地下足袋も下駄箱に?と聴くと、大きな下駄箱を開けてくれた。中には革靴、スニーカーなども等間隔で並び、あるべきものをあるべきところにあるべき姿で整頓する几帳面な性格がうかがえた。私は以前みせていただいた現場を思い出した。きちんと整頓すれば仕事中の事故や怪我の防止にもなる。現場での安全管理は玄関での所作で培われるのだろう。
ふたつめは、来客想いの玄関の店主は店にも同じような仕掛けをしていること。事例は眼鏡店の女性店主。彼女の玄関には玉砂利洗い出しの土間に小さな丸椅子が置いてある。この椅子が来客想いの仕掛けだ。なぜ椅子を置くのか?応えは、ご近所の高齢者への気づかいだ。たとえば回覧板でみえた時に式台だと低く掛けにくいが、椅子なら膝腰への負担が少なくひと休みできる。今度は彼女の店だが、入り口近くに立ち食いそば屋にあるような小さな丸テーブルが置いてある。聴けば郵便や宅配便の方専用らしく、座る間を惜しむ彼らをそこに促し「サインするからその間にちょっと飲んで」と冬なら温かい飲み物を夏なら麦茶を差し出す。これなら気兼ねなく一息つけるという気配りだ。
玄関をみれば「住む人がわかる」というが、店主の場合は「店がわかる」。この他に、机を見れば店主の器や共に働く方々の力量を推測できるが、この話はまた別の機会に。
(平成30年2月7日執筆)
-
vol.
230傾聴が役に立たない時もある
-
vol.
229初めてのおつかい
-
vol.
228創業からの人