2020.09/vol.180
店主の灯り
2020年の初夏は、給付金や助成金の申請に動いた店主が多かった。
藁をもつかむ、と言えばオーバーだが、目先を照らす「明り」はありがたい。しかし、明りに頼るだけでは、自ら進む方向は見えてこない。今居る闇の中をどちらに進むか?それは手前の明りを消し、闇に目を凝らすことで見えてくる。それはきっと、遠くの仄かな「灯り」に違いない。あとはそれ目がけて前進するだけだ。今日は、コロナ禍後に自店のあり方を模索していた店主が「灯り」らしきものに気づいた「語り」のエピソードを紹介しよう。
生活雑貨小売り業を営む店主と対話した時のこと。少し痩せて、やや沈んだ表情の店主と店奥に腰かけると、彼はコロナには触れず過去を振り返りはじめた。といっても、想い出を懐かしむ雰囲気ではなく、客観的で、ドキュメンタリーのような語りだ。それは、店主がナレーターで、これまでの商いを物語る、そんなイメージ。たとえば、改装後の店頭の評判が芳しくなかったが、その声があったから植栽飾りに目覚めたこと。急須のない家庭や会社が増え茶器が売れなくなったが、それがインテリア小物など品揃えの幅を広げたこと。購買以外の回遊・滞在などの店づかいを歓迎したこと。すると、入店だけでなく買上率向上にもつながった。いま思えば、こうした取組があいまって新規客が増えたのではないか…。
店主の語りに耳を傾けていると、彼なりの解釈が伝わってきた。それは、困った出来事こそ、自店を良い方向に導くきっかけだった。反発せずに受け止めて対応したから事態が好転したと。店主の語りはよく燃える「焚火」のようでもあった。きっと時間が経ち十分乾燥した過去の話だったからだろう。これが今の話(=伐採したての木)だと、おそらく煙りだけで、なかなか火が点かなかったはず。語り終えた店主を見ると、先ほどの沈んだ表情は消え、顎を引いて背筋が伸びていた。思いを語りきることで、今までの行動は正しかった、と肯定しているようにも見えた。そして、コロナ禍をきっかけに、また何かを変えてみよう!そんな意志が伝わってきた。
明かり、灯り、焚火…。今回はたとえが多かったが、今後、あなたの商いに困難や禍が訪れた時は、このエピソードを思い出して欲しい。自分自身を物語れば、自己肯定感が生まれ、そのころには、あなたの目にも灯りが見えているかもしれない
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228創業からの人